養育費の支払い約束に「公正証書」は必須―公正証書の役割&メリットの解説

養育費をもらう約束は「公正証書」で取り交わすべきです。

公正証書さえあれば、万一の未払いトラブルが起きた時に差押え・強制執行などの実効力のある回収手段がとれます。

公正証書作成は決してハードルの高いものではありませんが、その効力や記載内容について事前知識を要します。

大切な子どもの権利を守るため、弁護士がそれぞれ解説します。

公正証書とはなにか


公正証書とは、主に金銭の支払いや貸借に関する約束事を公文書化したものです。

約束の当事者だけで作成した文書(離婚協議書など)はあくまでも私文書であり、法的な拘束力をもたせるには裁判手続きを経なければなりません。

これに対し公正証書は、その内容が公証人(公務員の一種)の手により証明されたものであるため、裁判による契約の有効性の判断を得ずに強制執行手続きや差押えを行うことが出来ます。

養育費を公正証書化するメリット


養育費は未払いトラブルが多く、継続してもらっているひとり親世帯はわずか24.3%※です。

※参考:「平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告」引用は母子世帯の割合。

「約束しているのに支払われない」「途中で支払われなくなった」というトラブルを根本的に防ぐには、当初から養育費支払いの合意に法的拘束力を持たせておく他ありません。

そのための手段が公正証書です。

メリット1:約束した内容の証明手段になる


公正証書作成にあたっては、養育費の支払い条件(金額・期間・方法・支払日など)を細かく記載します。

記載された項目は全て公的な証明となり、あとで「言った」「言わない」の揉め事に発生するリスクをほぼゼロに出来ます。

メリット2:未払い養育費を速やかに回収できる


公正証書は債権回収手続きにおける「債務名義」と同じ役割を果たします。

通常、給料の差押えなどの強制的な債権回収の手続きを踏もうとすると、請求権の存在を証明するための「訴訟による債務名義の取得」が欠かせません。

これには数ヵ月以上の時間がかかる上、費用・立証などの様々なコストがかかります。

しかし公正証書さえあれば、訴訟を経る必要はありません。

督促をしても支払いが得られないなら、すぐに強制執行を申し立てて未払い分を回収できます。

強制執行で将来の養育費も回収可能


平成16年に行われた法改正で、強制執行により将来払われるはずの養育費も併せて回収できるようになりました(民事執行法第151条の2)。

公正証書によりダイレクトに強制執行できるようにしておくことのメリットは、ますます大きいと言えます。

メリット3:心理的拘束力も生じる


公正証書の役割を夫婦間で共有しておくことで、養育費支払いの義務者に対して「約束を守らなければならない」という心理的拘束力も生じます。

これにより、養育費未払い・滞納を未然に防ぐことができます。

公正証書の作成方法・手順


公正証書の作成は、管轄の公証役場で夫婦立ち合いのもと行います。

作成の準備段階として、離婚協議書(養育費に関する条件が記載されたもの)を作成しなければなりません。

    【公正証書作成の流れ】

  • ①夫婦で離婚条件について話し合う
  • ②離婚協議書の作成
  • ③公証役場の事前予約
  • ④夫婦揃って公証人と面談
  • ⑤公正証書原案の確認
  • ⑥押印の上費用を支払って作成完了

事前の準備(養育費の決め方)


公正証書作成では、離婚協議書作成の段階で養育費に関して細かく決め事をしておくことが大切です。

夫婦で合意できるなら自由に決めても問題ありませんが、以下の各事項については必ず明確に取り決めをしておきましょう。

    【養育費の必須協議事項】

  • 金額(月額)
  • 支払い期間(開始月~終了月)
  • 毎月の支払い日
  • 支払い方法
  • 振込先口座
  • 振込手数料の負担
  • 「将来増額請求することがあるか/ないか」の特約
  • 遅延損害金

これらの内容はすべて公正証書に反映されるものです。

抜け漏れがあると万一の未払いに対応できなくなるため、個別の事情にも添えるよう弁護士のアドバイスをもらっておくのが望ましいでしょう。

【ポイント1】「支払いの終期」が特に重要


養育費の約束は支払い期間(終了月)を具体的に決めておくことが最重要です。

当初は順調に支払われていても、終期をはっきりとさせなかったことが原因で途中から支払われなくなることがあるからです。

【参考】支払い期間の例文
「令和〇年〇月から22歳に達した後の3月まで

【ポイント2】「強制執行認諾文言」を付与する


公正証書を訴訟なしで債権回収ができる文書にするには、本文に「強制執行認諾文言」を添える必要があります。

【参考】強制執行認諾文言の例
本件契約を強制執行認諾約款付きの公正証書とし、○○(養育費支払い義務者)が支払いを履行しない場合、△△(養育費権利者)は直ちに強制執行を受けても異義のない事を承諾する。

養育費の取り決め方を弁護士に相談するメリット


弁護士の強みは「離婚協議の内容に関するアドバイス」から「公正証書原案」まできめ細かくサポートできることです。

公正証書に記載する内容は、個別の状況を鑑みながら厳密に決める必要があります。

そもそも、記載する内容は養育費だけではありません。

財産分与・慰謝料などの他の離婚条件についても取りまとめておく必要があります。

離婚問題を専門とする弁護士なら、これらの煩雑な手続きに加えて「子どものためにどんな養育費の支払い条件を決めるべきか」といった一歩進んだアドバイスも任せられます。

【Point】養育費問題は協議前にご相談ください。

ひとり親世帯が安心して暮らすには「養育費をもらう権利」を完全な状態で確保することが大切だと弊所では考えています。

義務者の財産が少なく浪費癖が見られるケースでは、ない袖は振れないという理由で支払いが滞る可能性があるでしょう。

当初に権利さえ確保していれば、裁判になっても安心です。

まず支払わせることを前提に「減額か期間短縮の交渉には応じる」という姿勢で対応に臨めるからです。

権利確保では初動が大切です。

養育費について話し合う前にご相談いただければ、協議全体の方向性についてのアドバイスをご用意できます。

養育費未払いトラブルは「公正証書」で防げる


養育費の約束を公正証書で交わすことは、法的・心理的の両面から支払いを強制するという点で安心できます。

訴訟や長引く督促なしで債権回収手段となり、子どもの権利を最後まで守れるでしょう。

公正証書の作成においては、権利と拘束力をはっきりとさせるために次の点に注意しなければなりません。

    【養育費を公正証書で取り決める際のポイント】

  • 支払期間を中心に細かく条件をさだめておく
  • 「強制執行認諾文言」を付与する

弊所では家事事件を中心に多数の離婚問題を扱い、ケース毎に必要な手続きをご提案してきました。

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